休みの日。部屋でのんびりしていると、ふと、ここ最近あの男のところへ行っていないことを思い出す。
恐らく、最後に行ったのは二週間くらい前だろうか。やることといえば、いつもとかわりばえしないセックスだけだ。話すことはほとんどないし、他にやることもない。正直にいうと、一緒にいてもつまらないのだ。
菜津実としては、自分から誘うことも、相手が動かないことも気にしない。むしろ、そちらのほうが都合がいい。そう思っていたのだが、実際はそうではなかったらしい。
せっかくの都合がいい遊び相手だというのに、どうも最近は足が重い。向こうが楽しんでいる様子はないし、会話らしい会話もない。仕方のないことかもしれないが、もったいない。
別にこのまま離れるのもいいかもしれない。しかし、嫌がってはいたが、拒絶はしてこない。そんな都合のいい相手など、なかなか現れない。また新しい遊び相手を見つけることでさえ、今の菜津実の年齢から考えると一苦労なのだ。
何かいい案はないかと考える。人のいない自分の部屋が、今日はなぜかいつも以上に寂しく感じる。
ぼんやりと部屋を眺めていると、あるものが目に入った。近づいて、それを手に取ってみる。箱に入っているそれは、昔、遊んでいた男に頼まれて使用したもの。どうやって捨てようかと悩んでいるうちに、忘れてそのまま部屋に放置していたものだ。
これを使えば、少しは楽しめるかもしれない。あの男は押しに弱いので、最初は嫌がるかもしれないが、頼みこめばなんとかなりそうだ。
早速、他に必要なものは何があるだろうかと考える。他の人が使ったものよりも、新しいもののほうがいいはずだ。他のものを揃えるためにも、買いに行こうと支度をする。善は急げだ。次に彼と会う日が、楽しみになってきた。
久しぶりに会った男は相変わらずで、菜津実に対し嫌そうな顔をする。それでも、この男は帰れとは言わない。
中に入り、菜津実は久しぶりですねと声をかけた。男は、色々な物を持っている菜津実を不思議そうに見ているが、自分には関係のないことだと思ってか、何も聞いてこない。余裕でいられるのは今のうちだと心の中で笑いながら、菜津実はなるべく、優しい声でお願いがあるのだと男に言った。
本当にやるのか、という男の戸惑った声が聞こえる。今更何を言っているのか、菜津実はただ笑みを深くして男を見た。
「男に二言はないんでしょ。なら、さっさと諦めてくださいよ」
菜津実のお願いによって、男は今、下半身を露出した状態でソファに仰向けで横になっている。足を自分で抱えてもらい、お尻がよく見える状態だ。
菜津実は、手袋をはめた手に、ローションをたっぷりつける。男は、これからされることに怯えてるようだ。
後ろを弄ったことがないというため、時間をかけてゆっくり解していった。そのおかげか、だいぶやわらかくなってくる。そろそろ、大丈夫だろう。
人差し指を、ゆっくり孔に入れていく。男の小さい呻き声が、聞こえた。緊張しているのか、だいぶ力が入っている。菜津実は、なるべく安心させるように大丈夫だと囁いた。
力が抜けてくるのがわかり、呼吸に合わせて少しずつ指を入れていく。ローションで多少の滑りはよくなっているが、初めてであるため、中はきつい。一気に入れることはせず、菜津実はゆっくり時間をかけて、人差し指を奥へと入れていった。
なんとか付け根付近まで入れることができると、今度は中を探るように指を動かす。そして、ある場所を探り当て、そこを押したり撫でたりしていった。
男の反応が、あからさまに変わっていく。さっきまで力が入っていなかったのに、今は強張っている。声も、必死に押し殺そうと耐えていた。いつもなら見れない反応で、可愛らしい。
菜津実は、ゆっくり指を引き抜いた。抜ける瞬間、男が耐えきれずに声を出す。その声がまた、耳に心地よかった。
今日はここまでだ。もう少し遊びたかったが、やりすぎて次の時に嫌がられても困る。名残惜しいくらいが、ちょうどいい。
手袋を外して、道具を片付ける。今日持ってきた道具たちを一つにまとめて、適当なところへ移動させようとした。男の、どこか名残惜しそうな目線を感じたが、気のせいだということにする。
「これ、ここに置いときますけど捨てないでくださいね」
いい感じにある棚に、道具を置く。まだまだ使ってない道具はたくさんあるため、どれをいつ使おうか悩んでしまう。今はまだ男の体を慣らすことが先だが、持ってきた道具を全部使ったらどうなってしまうかと、今から楽しみだ。
男にバレないように笑いながら、菜津実はまた明日と告げて部屋を出ていった。
毎日、少しずつ体を慣らしていく。そのおかげか、指は三本ならすんなり入るようになってきた。男の反応も、最初に比べていい感じになってきている。必死に堪えようとしているのだが、明らかに声や体の感触が変わってきている。
いい頃合いだ、そろそろ新たなステップに進んでもいいだろう。次は何をしようか、何が必要か。考え事をしながら、菜津実は今日の準備をしていった。
持っている道具の中でも一番細いものを、男の肛門へと入れていく。指よりは太いが、毎日のように体を慣らしていたため、少しずつ入っていく。いつもと違う感触を理解しているのか、男の反応は少しかたい。しかし、玩具は男の中にゆっくりと吸い込まれていった。
「ほら、全部入りましたよ」
すっかり奥へと入り込んだ玩具を見ながら、菜津実は楽しそうに言った。男は、返事ができないのか、苦しそうに、荒い息をしている。菜津実のことを睨んでいるようだが、潤んだ瞳と紅潮した頬で、迫力がない。
本来なら排泄器官である場所に、異物を入れたのだ。男の今までの人生から考えると、ありえないことだろう。もしかしたら、屈辱なのかもしれない。
今日は、玩具をしばらく入れて過ごしてもらおうと考えている。この玩具を入れることで、前立腺を刺激するのだ。菜津実にとっても未知の領域のため、どうなるのか楽しみである。
勝手に抜かないでくださいね、と言い添えて、菜津実は寛ぎ始める。男は戸惑っているようで、視線をさまよわせている。さすがに下半身を露出したままでは可哀想なので、菜津実は床に散らばっている服を拾って渡した。
男が衣服を身につけたのを確認する。それに満足して、菜津実は勝手にラジオをつけた。流れる音に耳を傾けながら、菜津実は男にもたれかかった。
異変を感じたのは、ラジオを聞き始めて数十分立った頃だった。男の様子が少しおかしい。落ち着きがなく、少しだけ頬が赤い。息も荒くなっており、菜津実はどうしたのかと聞いてみた。しかし、男は大丈夫だと答える。
これはそろそろだと思い、菜津実は男を押し倒す。何するんだ、と言ってくる男を無視して、ズボンと下着を一気に脱がした。
孔に入れてある玩具を、軽く動かしてみる。それだけで、男の嬌声に似た声が聞こえる。男も、自身があげた声に驚いたのか、菜津実の動きに合わせて出そうになっている声を、必死に歯を食いしばって耐えようとした。
最初はゆっくりと、そして徐々に手の動きを速くする。それと同時に、もう片方の手で男のペニスを扱き始めた。
後ろと前を同時に弄られ、男は菜津実の手から必死に逃げようともがく。しかし、すでに快楽に支配されているためか、思うように動いていかない。声も、抑えきれずに時々嬌声が漏れ出てくる。
時に速く、時に遅く、緩急をつけて動かしていく。そうして遊んでいると、男は吐精し、今まで以上の悲鳴に近い声が聞こえてきた。体も痙攣し始め、今までとは様子が違う。
イったのだと、すぐにわかった。どこか辛そうなのは、未知の快感のせいだろう。もしかしたら、気持ちいい、よりも怖い、という感情が勝っているかもしれない。
玩具を引き抜き、男に声をかけてみる。返事はなく、ただ荒い息を繰り返していた。快楽が強いせいか、体は脱力しており動く気配はない。瞳もうつろで、どこか遠くを見ている。しばらくは、動けなさそうだ。
男が動けるようになるまで、菜津実は待つことにした。この後は家に帰るだけだが、男を放っておくのも良心が痛む。せめてちゃんと返事ができるようになるまでは、ここにいることにした。
ふと、カレンダーを見て今日の日付を確認する。菜津実としては、このまま日を置かずに遊びたいのだが、他の予定のこともある。しばらくはそんな時間はなさそうだった。
「一週間くらい来れそうにないので、忘れないようにして欲しいんです」
あなたが先程味わったその感覚を、忘れないよう、自分でやってやってほしいのだと。そう、いい含めて。
男に、先程抜いた玩具を握らせる。まだ瞳は意思が定まっておらず、虚空を見つめていたが、菜津実は気にせず話しかけた。
頑張ったらご褒美をあげますよ、と伝えてみる。当たり前だが、反応はない。もしかしたら聞こえていないのかもしれず、それほど、快楽が強かったのだろうということが窺い知れる。
次に会う日を楽しみにし、菜津実は後片付けを続けていく。今度はどんな反応をするのだろう。
男の意識がはっきりするまで、菜津実はこの部屋に留まる。このビルで鍵をかけずに出るのは、やはり気になってしまう。これが職業病だろうかと考えながら、ソファで横になっている男の髪を撫でてみた。
少しして、男の意識が戻ってくる。菜津実のことを見て、気恥ずかしくなったのか、すぐに目を逸らした。
菜津実は、男の様子を見て安心する。もしあのまま起きなかったらどうしようかと、考えていたのだ。
身支度をして、菜津実は部屋を出る。出る直前、いつものように、鍵はちゃんとかけるようにということ、しばらくは来れない事を告げた。男の返事はなかった。
あれから一週間。菜津実は、少しワクワクしながら久しぶりに男のもとへと訪れる。
一週間ぶりに見た男の顔は、相変わらず嫌悪を隠そうとせず、しかし菜津実を拒絶しない。その距離感が心地よく、菜津実はいつものように笑うのだった。
「前に言ったこと、覚えてます?」
挨拶もそこそこに、菜津実は尋ねる。男の意識がない時に言ったことだ。男は不機嫌を露わにし、菜津実を睨みつけている。しかし、返事はない。思い出そうとしているのだろうか。
男の、反抗的ともいえる態度が面白く、菜津実は笑う。嫌だという気持ちはあるのに、結局は受け入れてしまう優しさを持っている。菜津実にとっては、これくらいが楽しい。
菜津実は、自分が置いていった箱を探す。目的のものを見つけ、菜津実は知らず知らずのうちに笑う。これを見せたら、あの男はどんな顔をするだろうか。
鍵がしまっていることを確認してから、男のところに近づく。菜津実は探していたものを男に見せ、今日はこれを使いますと男に告げだ。すると、男の顔色が変わっていき、菜津実が持っているものを凝視する。相変わらず面白い反応がすると思い、菜津実はそんなに楽しみなのかと聞いてみた。男からは、ただ違う、という小さな返事だけが返ってきた。
菜津実は服を脱ぎ、男に見せたものを自身の腰に取り付ける。それは、男性器を模した玩具であった。細いものであるが、形はしっかりとしたものである。
菜津実は男を押し倒す。男は驚いているのか、あっさりとソファに押さえつけられた。されるがままになっている男を見て、菜津実は今のうちだと男の下半身を出そうとする。その時、何かを悟ったのか、男は必死に逃げようともがき始めた。しかし、組み敷かれている状態ではうまく動くことができず、菜津実にズボンと下着を取り払われてしまった。
いつものように、菜津実はゆっくりと孔を解していく。一週間ぶりだからか、なかなか指が入っていかない。何もやらなかったのかと男に言うと、あんなの自分でやるかと一蹴されてしまった。
ある程度解れてきたところで、菜津実は己につけているものと、男の孔にローションをたっぷりつける。男にものをしっかり見せて、これからこれを入れることを男に伝えた。男の顔は少し青ざめているが、それでもやめろとは言わない。プライドか、それとも己が立てた誓いのためか。力を抜くよう指示して、菜津実は一気に玩具を男の中へと入れた。本来ならゆっくり入れていくものであるが、男の先程の態度が気に入らなかったため、少しいじめてやろうと思ったのだ。
男の、悲鳴に似た声が聞こえる。抜いてくれという懇願じみた言葉も聞こえてきた。顔を見ると、痛みと嫌悪と気持ち悪さが混じったような、そんな顔をしている。その顔がまた、嗜虐心を煽る。
「女に犯されてる気分はどうですか? 屈辱でしょう?」
菜津実の問に、返事はない。返事をする余裕がないのだろう。菜津実が少し腰を動かすたびに、苦悶と痛みを耐える声が聞こえる。まだ耐える余裕はあるようで、菜津実は動く速度を速くしていった。
少しずつ、男の声が徐々に甘い嬌声へと変わっていく。菜津実に嫌悪の視線を向けていた目は、今は固く閉ざされている。声を出さないように、必死に耐えているのだが、たまに漏れ出る声が扇情的だ。
男の性器を見ると、固く張り詰めていた。先端には、先走りが溢れてきている。菜津実は、少し余裕が出てきたため、せっかくだからと男のモノを扱き始めた。
時にはやく、時に遅く、焦らすように腰と手を動かしていく。男は、なおも声を出さないように口を閉ざしているが、耐えられなくなっておりどんどん嬌声が大きくなっている。もう少しだと、菜津実は確信した。
ぐっと腰を動かすと同時に、男が痙攣をして射精をする。勢いがよく、菜津実の方にも精液が飛び散った。男はもう声を我慢する余裕もないのか、一際大きい喘ぎ声を出している。
男が果てたのを見届けて、菜津実は入れていたものを抜き取る。抜く時に、男はびくりと震えたが、先程のような声は出さなかった。
男のことを無視して、菜津実は後片付けをする。しっかり出来上がった男を見て、菜津実は満足だった。思いのほか、楽しんだ気がする。
男は汚れた体そのままに、荒い息を繰り返している。この間のように、まだ意識は定まっていないようだが、菜津実の知ることではない。
菜津実は片付けを終えて、シャワーを勝手に借りる。今の男の様子では、何もすることができないだろう。もう少し、状態が回復するのを待つことにした。
シャワーを終えると、男はまだぼんやりしているが顔を動かすことはできるようになっていた。菜津実のことを見て、まだいたのかという表情をしている。あのまま部屋を出なかったことを褒めて欲しいと思いながら、菜津実は男に近づく。そして、そっと男に耳打ちをした。
――次に会う時は、ちゃんと準備してくださいね、じゃないとお仕置きしますよ。
準備は何を示すかは伝えない。どうせ伝えたところで、この男がやるとは思えないのだ。あくまで菜津実がただ楽しんでるだけのこと。男にとっては不本意なことなのだ。
菜津実は帰り支度を終えると、次はいつ来ようかとカレンダーを見る。特に予定はないため、好きな時に行けそうだ。男に別れの挨拶を告げて、菜津実は部屋を出る。次に会う時が、楽しみだった。